『発狂した宇宙』/フレドリック・ブラウン

世界線の移動という発想を持たず、最初から「世界が変質した」というラインで自らに降りかかった異変を考えるあたり、多元世界に関するリテラシーをあまり持たない(これは終盤に示されますね)主人公で、これがすごく新鮮に感じました。こういう時、即座に「帰る方法を」という発想に行かない主人公。

・あと、自分と同じ名前の編集者に原稿を持ち込むシーンなんかも、いかにもな感じ。パラレルワールドに迷いこむって可能性を考慮していれば、その世界での自分にあたる人物との接触は何よりも忌避すべきものであり、だからあそこら辺のシーンでは読みながらおいやめろと心中連呼させられました。

・「夜行団」の名前や実際の振る舞いに超格好いいものを感じたので、最後に“いかにもSFマニアの少年が夢想しそうな世界”とさっくり切られててちょっと恥ずかしくなりました。でもやっぱり格好いいと思います。だって暗闇に乗じるプロの盗賊団だぜ。

・当時のパルプ雑誌に載っていた陳腐なSFを痛烈に諷刺したメタSFなんだよねーという評価に各所で出会い、その発想が全くなかったので素で死にたくなりました。リテラシー低いなあ僕。

・SFとしても古くは感じませんでしたし、少しだけ変質した世界で手探りに進むサスペンスとしても非常に面白く読めました。