『キリンヤガ』/マイク・レズニック

・老いたケニア人の男性コリバが祈祷師ムンドゥムグとして人工のユートピア「キリンヤガ」を運営する話。

・あとがきで著者自ら「両義性」という言葉を持ち出している通り、どの話にも閉塞感が付き纏いますね。どう決断しようと何かが切り捨てられる問いの連続。

・歴史上のある瞬間を「善き時代」として別の場所にそっくりそのまま再現しても、元の歴史と同様、変化を始めてしまうという、当然の話。コリバのようなキクユにとっての楽園は、彼のような者が権勢を独占できる共同体でしか成立せず、だから新たな生命の育みを―――人間そのものの代謝をその営みに含めねばならない集落に於いては、根本的に実現不可能であったのでしょう。だから、彼がキクユであるためには、独りで神と向きあって完結するほかない。

・二章「空にふれた少女」が特に好きですね。自由の象徴としての空。