『東京皇帝 北条恋歌(一巻)』/竹井10日

・長大なラノベの1章だけ取り出してみたのかなあ、という印象を抱かされるほどに一冊で話が纏まっていないです。最後の数ページでやっと最初の大きな流れが始まるのかなーってくらいの雰囲気をほの見せたくらい。ラストでちょっと状況が動いて次巻へ引き、という意味では漫画っぽい構成かも。お話のレビューとか出来る代物には感じないなあとは思いました。掛け合いのセンスだけで充分に楽しめたとはいえ。

・主人公がMarronゲー三部作とは全く違う印象。むしろモブっぽいキャラ立て。これにはびっくり。

・北条恋歌ちゃんがいまいちかわいくないのですが、フラグ立ったからには二巻以降で可愛くなるのでしょうたぶんおそらく。

・気弱ツンデレかわいいですね。本当にかわいいです。なんというか、良い感じのデレ方をした姫、みたいな感じ。

もなみん風味のキャラがいたナノですー。

・武彦さん何やってんの。

 『狂乱家族日記 壱さつめ』/日日日

・事前情報として「日日日はヤバい」といったような噂だけは耳にしていたため、欝だったらどうしよう、グロいのも覚悟すべきか、と戦々恐々の体で読書に臨む羽目となった……のですが、思った以上に優しい世界の話でした。優しい世界は大好きです。

・続刊を意識してか、掘り下げの行われているキャラはまだ少ない印象。キャラ同士の哲学バトルという訳でもなく、ロジックを積んだ上での政治的駆け引きでもなく、一切合切の悲劇を喜劇にブチ組み替えてしまう乱崎凶華様の圧倒的暴力性だけで清々しく全てを台無しにしていったような、そんな印象があります。

・笑うべき者が最後に笑えている世界というのはとても好ましいものです。改めてそう思いました。

 『青葉繁れる』/井上ひさし

・主人公の高校生らしい妄想が非常に生々しくて笑えません。いや客観的にはたぶん面白いんですが、可愛い娘を見るたびその娘との将来まで妄想してしまう、というシーンでこう過日の古傷がずきずきと。きっつい。
 
・どこに着地するのか全くわからないなあと思っていたら、特に劇的なこともなく終わった。ある意味、とても酷薄な感触。
 
・正直あんまり飲み込めてないです。常にもまして。

 『攻殻機動隊S.A.C. Solid State Society』

 攻殻機動隊S.A.C. Solid State Societyを視聴。以下雑感。

・変化していく九課の描写で幕を開けたので、てっきり人間ドラマと事件を並行して描くのかと思ったのだけれど、前者は少佐が合流した時点で有耶無耶になってしまったような印象。それだけ少佐の拠り所っぷりが凄まじいという話なので、自然な話ではある。でも、一区切りを付けてから―――少佐がいなくたってやれる、という体制を一瞬でも見せてくれてから合流してくれたらなあ、とも思う。

・絵は文句なしに綺麗。でも、たまに車のCGがものすごく不自然な挙動を示すのでえーってなりました。具体的には奥行き方向の移動時。大きさ変わらず進んでるカットがあるような。

・尺が足りない感じはした。もっと見せてよ、と言いたくなる。

・Solid Stateの正体についてはいまいち理解できてません。

『キリンヤガ』/マイク・レズニック

・老いたケニア人の男性コリバが祈祷師ムンドゥムグとして人工のユートピア「キリンヤガ」を運営する話。

・あとがきで著者自ら「両義性」という言葉を持ち出している通り、どの話にも閉塞感が付き纏いますね。どう決断しようと何かが切り捨てられる問いの連続。

・歴史上のある瞬間を「善き時代」として別の場所にそっくりそのまま再現しても、元の歴史と同様、変化を始めてしまうという、当然の話。コリバのようなキクユにとっての楽園は、彼のような者が権勢を独占できる共同体でしか成立せず、だから新たな生命の育みを―――人間そのものの代謝をその営みに含めねばならない集落に於いては、根本的に実現不可能であったのでしょう。だから、彼がキクユであるためには、独りで神と向きあって完結するほかない。

・二章「空にふれた少女」が特に好きですね。自由の象徴としての空。

『発狂した宇宙』/フレドリック・ブラウン

世界線の移動という発想を持たず、最初から「世界が変質した」というラインで自らに降りかかった異変を考えるあたり、多元世界に関するリテラシーをあまり持たない(これは終盤に示されますね)主人公で、これがすごく新鮮に感じました。こういう時、即座に「帰る方法を」という発想に行かない主人公。

・あと、自分と同じ名前の編集者に原稿を持ち込むシーンなんかも、いかにもな感じ。パラレルワールドに迷いこむって可能性を考慮していれば、その世界での自分にあたる人物との接触は何よりも忌避すべきものであり、だからあそこら辺のシーンでは読みながらおいやめろと心中連呼させられました。

・「夜行団」の名前や実際の振る舞いに超格好いいものを感じたので、最後に“いかにもSFマニアの少年が夢想しそうな世界”とさっくり切られててちょっと恥ずかしくなりました。でもやっぱり格好いいと思います。だって暗闇に乗じるプロの盗賊団だぜ。

・当時のパルプ雑誌に載っていた陳腐なSFを痛烈に諷刺したメタSFなんだよねーという評価に各所で出会い、その発想が全くなかったので素で死にたくなりました。リテラシー低いなあ僕。

・SFとしても古くは感じませんでしたし、少しだけ変質した世界で手探りに進むサスペンスとしても非常に面白く読めました。